2012年3月31日土曜日

スペイン風邪と先住民村4 Of 野営飛行舎



そういえば確かに町の海岸南側には、どこの村でも見かけるような墓地があった。

早速、その場所へ行ってみると、あったではないか。巨大な十字架が。
ここで文献によれば、十字架は以下の人間が建てたとされている。

ヨハン・フルティンは、1998年9月、ふたたびブレイビング・ミッションを
訪れた。ベーリング海峡の冷たく泡だつ海に面した荒涼たるツンドラの平原で、
彼はその銘板を十字架に貼り付けた。


この十字架の下は永久凍土であり、
72名のスペイン風邪犠牲者が眠っているらしい。

十字架の前に立つ私は無性に、
この十字架を建てたヨハン・フルティンのことが気になった。

なぜ、ヨハン・フルティンという人間がこの十字架を建てたのか?
その理由がここで分かることになる。文献を元に以下に説明しよう。


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 ヨハン・フルティンは、ストックホルムで育ち、1949年にアメリカへ渡って、アイオワ州立大学で免疫学を学んだ。同大学ではインフルエンザの研究が行われており、フルティンもその研究をしていた。彼はその時の博士論文のテーマとして「1918年に大流行したスペイン風邪のウイルスがどんな性質のものだったか」を選んだ。そのためにフルティンは自分で北極の地まで出かけてゆき、永久凍土に埋葬されているインフルエンザの犠牲者を見つけようとするのであった。そしてフルティンは、わざわざこのブレイビング・ミッションまで来てこの十字架の下の永久凍土で凍り付いたまま土に帰ることなく眠る、スペイン風邪のインフルエンザウイルスをもつ遺体を掘り起こしたのだ。この十字架は彼が1998年に建てたらしく、私の目に� ��に立つこの十字架は比較的新しい。


しかし物語は、そう簡単ではない。

 フルティンが博士課程論文としてこの地に最初に来たのは、1951年の晩夏。なのにこの十字架が立てられたのは、1998年。この47年間の空白の理由はなんだろう? フルティンは1951年(彼は当時26歳)、ブッシュパイロットとともにこの村に来て、遺体の掘り起こしに関する村の許可をもらってから、インフルエンザウイルスを持つと思われる犠牲者の掘り起こしを開始した。掘り起こしは、永久凍土をとかす作業から始まる。付近の流木に火をつけて地面をとかしながらの作業は、苛酷を極めたようだ。


あなたのために悪い炭酸です。

 〜私は一日に16時間働いた。外は暗くなることはなかった。そうして掘り続けているうちに、最初の犠牲者が見つかった。六歳ぐらいの少女だ。美しい子だった。黒髪を編んでいた。保存状態はよく、まだほかにもたくさんの遺体がありそうだった。(中略)我々は遺体そのものを移動させず、凍結した肺の検体をその場で採取した。肺の中には結晶ができていた。固くはなかったが、ほぼ凍っていた。検体は魔法瓶に入れて、ドライアイスで密封した。4つの遺体から検体を採取し穴を埋め戻し、大急ぎでアイオアに戻った。

 フルティンは六週間にわたりあらゆる方法で、その献体を調べた。しかし持ち帰った献体には、インフルエンザそのもの、生きたウイルスは存在しなかった。なぜインフルエンザウイルスは発見できなかったのか?インフルエンザは、そもそも非常に壊れやすいウイルスだ。現在ではPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)を用いれば、インフルエンザウイルスの断片を発見することは可能だが、フルティンがそれを思いついて検体を掘り起こした1951年当時にはPCR法は存在せず、したがってスペイン風邪のインフルエンザウイルスの断片すら発見には至らなかったというわけだ。

それから47年の歳月が経ち、72歳になったフルティンは
PCR法にてウイルスを分析できる唯一の人間、
トーペンバーガーという研究者の存在を知る。

フルティンは、すぐにトーペンバーガー宛に手紙を書いた。

「自分は70代を過ぎているが、ぜひもう一度挑戦したい。
採取は自費でやるつもりだし検体が採取できたら寄贈する」


"スタックの喫煙者を使用する方法"

 トーペンバーガーの快諾を得るとフルティンはすぐにノームまで飛び、そこでブッシュパイロットを探し出してブレイビング・ミッションへ運んでもらう。2度目のブレイビング・ミッション入りだ。47年前にそうしたように村の議会で許可をもらった後、すぐに発掘を開始した。地元の青年4人が手伝った。フルティンは、発掘期間中、村の学校でエアマットを敷いて寝た。そして発掘4日目、骨ばかりの遺体に挟まっていた女性の遺体が極めて良好な保存状態であったのを発見した。

 この女性の遺体は、おそらく30歳ぐらいで太っている。皮下脂肪のおかげで腐敗しなかったのだ。フルティンはバケツの上に腰を下ろし、その女性を観察した。肺も良好な状態にあるだろう、とフルティンは考えた。共同墓地なので彼女の名前はよく分からなかった。(中略)彼は、さらに別の三体から組織検体を採取した。トーペンバーガーから提供された保存剤で検体を固定して、また元の所に埋めなおし、凍結状態がつづくようにした。そのあとフルティンは、村の学校の木工室で、墓にあった二本の十字架の複製を制作した。1本は高さが1.5メートルもう一本は2.7メートルであった。墓を元通りに戻すいっぽう、検体を回収して、4つの小包にしてトーペンバーガー宛に送った。

 3週間後、検体を受け取ったトーペンバーガーはフルティンに電話し、検体の肺には1918年のインフルエンザウイルスの断片がいっぱい入っていることを伝えた。こうしてフルティンとトーペンバーガーが発見したインフルエンザウイルスによって、ついにそのウイルスのおおよその姿が解明されたのでした。


その後、、、検体からRNAが発見されたことを知るとフルティンは、
新しく作った大きい方の十字架に貼るために真鍮製銘板を二枚発注していた。

十字架につける銘板には、以下のような文章が彫刻されていた。

以下72名のイヌピアト族の人々がこの共同墓地に埋葬されています
彼らをあがめ、いつまでも忘れぬようここに記すものです

彼らは、1918年11月15〜20日のわずか5日間に
インフルエンザ大流行によって一斉に命を落としました・・


 ドクター吉川氏から聞いた話がここまで奥深いことに驚くと共に、
いま目の前にある十字架を見ている自分が不思議でならなかった。

十字架の縦方向には72名の犠牲者の名前が刻銘されている。
フルティンが村人から調べて正確に刻んだ名前だ。
よくその名前の羅列を見てみると、
その中には・・

Ayena  6months

という刻銘や、たった3ヶ月で死んだ子供の名前もあった。
それにしても、たった5日間で72名の命を奪うウイルス・・・・

 ※

こんな辺境の地に2度も飛んできたフルティンの情熱を、
インフルエンザのエピソードを介して出会えるこの不思議さ、
これは大変興味深いものでした。

出会ったこともない情熱に突然遭遇するよろこび

想像してください、

ベーリング海に面する小さなエスキモー村の
いまでも氷の下で眠る72人の人たちと
研究と情熱を叶えるためにこの地を訪れた男の物語を。



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